モダングラフィックデザインのはじまり
自分がデザイン業界に初めて身を置いたときは、まだどこのデザイン事務所にも紙焼き機がありました。
紙焼き機とは白黒で感光できる印画紙に高精度で版下用にデザインを拡大縮小して撮影できる機械で、畳半分くらいの面積の暗室の中に設置されているようなものです。
当時のデザイナーは手描きしたデザインの部品をこの紙焼き機を使って印画紙にハッキリ、クッキリ、デザインを落とし込み、それをカッターナイフなどで切って、版下に糊付けしていってました。
文字の部分は写植といって専門の業者に文字の大きさ、字間、行間などを指定して、これまた印画紙に焼きこんでもらい、またまたカッターナイフなどで切って、版下に糊で貼り付けていました。
版下というのはこういう部品を厚紙に張り付けた手作りのものだったのです。
そんな中、Apple Macintoshが革命を起こします。創設者のスティーブジョブスは盛んにWYSWYGという言葉をスローガンに使っていました。実はジョブス氏はかなりのタイポグラフィマニアで、大学でもタイポグラフィの授業をうけていたという話を聞いたことがあります。
WYSWYG とは、
W hat Y ou S ee is W hat Y ou G et.の頭文字をとった造語でした。
画面上で5センチ角の四角を描いたとします。
それをレーザープリンターで出しても、ドットプリンターで出しても同じ大きさで出力される。
モニター、レーザープリンター、ドットプリンター、すべて解像度が違っていてもです。
当時コンピューターの画面描画はピクセルベースが当たり前でした。
ベクトル描画という概念はあったものの、かなり高度な処理で実用には至っておらず、唯一頻繁に見ることがあったのがゲーム業界でした。
それをパーソナルコンピューターに惜しげもなく持ち込んだのが、AdobeとApple。
PostScriptというベクトル描画概念を使いはじめたのです。
Adobeが作ったAdobe Type Manager(以下ATM)とAdobe Illustratorが最先端のソフトウェアで、どんな出力機でもその出力機の最高の性能で結果を得られるようになったのです。
たとえば、雑誌の紙面のデザインをするのにページを横断する欧文タイトルを考えたとします。それまでは
- モンセン欧文清刷り集といういろいろなタイプフェイスが収録された大きい本から書体を選ぶ
- それをコピー機でコピー
- 必要な文字をカッターで切り出して、文字列に並び替える
- 紙焼き機で印画紙に落としんで撮影
- 紙焼きしたデザインをカッターで切り抜いて、版下に貼り付ける
今考えると気が遠くなるような作業量です。
これが、AdobeとAppleのおかげで
- 画面に文字を打つ
- 印画紙にプリントアウトする
- 版下に張り付ける
に変わりました。
テクノロジーに翻弄されるデザインという職業
完全にワークフローが変わったのを覚えています。
ワークフローがここまで変わるとデザインのトレンドも一挙にかわっていきました。作業時間の短縮でデザインを考える時間が増え、当然それまでなかった表現方法もうまれグラフィックデザイン業界はは劇的にかわりました。
このような革命は何もAdobeとAppleが初めてではありません。
印刷機や印刷方法の進化もデザインの考え方をどんどん変えていったのです。今では主体メディアがRGBベースの発光平面へ移行しつつありますし、そういった画面の解像度もどんどん高くなっていっています。
さらには画面なので画像として止まっている必要がなく、映像になったほうがより深いコミュニケーションを行えるので、そういった要求も増えていきます。
デザイナーはいつの時代もテクノロジーの進歩に翻弄されていきます。それでもミッションは変わりません。やらなければならないのはビジュアルコミュニケーション、メッセージを効果的に視覚化して伝えていくことです。
できる限り翻弄されることなく、スムーズにビジュアルラングエッジの具現化を目指すために知の共有を計ろうというのがcrftの目的です。
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